「子どもの本棚」固くなったこころにしみてくる
■「かたつむりくん ゆっくりだって、いいのよ〜ん」
かたつむりくんの雨の日のおさんぽ。急がず慌てず目的もなく、アクシデントもなんのその。気負わない気ままな時間は、思いがけない新しい風景を見せてくれ、なんだか楽しい。本当はマイペースに生きていきたいけれど、世界はあまりにも目まぐるしくて、自分に向き合うことってあまりできない。なんだか固くなってしまった心に、「ゆっくり」というかたつむりくんの言葉が、じっくりじんわり、しみてくる。
絵本のページを開いて、肩ひじ張らず、ほっと息をつく。ああ、至福。ものすごく忙しい日常を過ごす子どもたちに。仕事や育児に追われる大人たちに。自分のことをゆったり見つめて、また、よいしょと前に進める力を養いましょう。(丸善丸の内本店・児童書担当 兼森理恵さん)
★かとうまふみ作、風濤社、税抜き1400円、4歳から
■「アルバートさんと赤ちゃんアザラシ」
店を売って生きがいをなくしていたアルバートさんが、海で、親を亡くしたアザラシの赤ちゃんに出会う。このままでは死んでしまうと連れ帰ることに。でも、アパートはペット禁止で、うるさい管理人もいる。動物園で飼ってもらうもくろみもはずれ、さあ困った。作者の父親の実体験をもとにしたお話で、絵も楽しい。(翻訳家 さくまゆみこさん)
★ジュディス・カー作・絵、三原泉訳、徳間書店、税抜き1400円、小学校中学年から
■「ひらけ蘭学のとびら」
杉田玄白の「解体新書」が、江戸時代にどのようにして世に送り出されたのかを知ることができるだけでなく、蘭方医(らんぽうい)たちの不屈の精神とその情熱に心が動かされる物語。父と同じ医者になった玄白は、人体のふしぎを解き明かすために、ことばも知らないままオランダの医学書の翻訳にチャレンジしていく。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
★鳴海風著、関屋敏隆画、岩崎書店、税抜き1500円、小学校高学年から
■「だれのこどもも、ころさせない」 安保法反対の合言葉、絵本に
一昨年の7月、東京・渋谷で安全保障関連法の制定に反対する母親たちによるデモが開かれた。その時の合言葉が、「だれのこどもも ころさせない」(かもがわ出版、税抜き1600円)という絵本になった。
デモは「安保関連法(当時は安保関連法案)に反対するママの会」が呼びかけ、画家の浜田桂子さん(69)も個人で参加。昨年5月に「デモのかけ声を絵本にしたい」と打診され、引き受けた。
合言葉は「せんそうさせない こどもをまもる」「ママは せんそうしないときめた」など。最初は「絵本の言葉になるのだろうか」という心配もあったが、ママの会発起人の西郷南海子さんと共同作業で進め、下書き本を作っているうちに、言葉の世界と絵の世界が浸透していったという。
「せんそうのどうぐ つくるのやめよう」という言葉には、世界のお母さんたちが協力して巨大な掃除機で兵器を吸い取る姿を描いた。表紙は、お母さんがぎゅっと子どもたちを抱きしめている姿に。元気な子どもたちの傍らに、少年兵や難民の子など戦争で命を落とした子どもたちも登場する。
「子どもがいきいきと生きられることが平和な世の中。大人も子どもに戻ったつもりで読んでもらえたら」と浜田さん。「親の意見を押しつけるのではなく、一緒に読んで子どもの話を聞くきっかけにしてほしい」(見市紀世子)