本日の育児情報 2017年5月20日 神戸新聞より
子どものうつ病
小学生から思春期にかけての子どものうつ病が注目されている。いじめや受験家庭事情などのストレスがきっかけに成り得るが表現力の未熟さになどから見逃されがちで診断や治療は大人に比べてむずかしいとされている。
必ずしも適切な診療が行われていない現状を踏まえ、日本うつ病学会は、昨年7月に改定した「うつ病ガイドライン(指針)」に「児童思春期のうつ病」を盛り込んだ。子どもならではの症状に着目し家庭や学校との連携の重要性や慎重な薬の使用を求めている。
行動で異変察知
同学会の指針によると、診断基準は基本的に大人と同じで日本でも広く用いられている米国精神医学会の基準を紹介。「抑うつ気分」または、「興味喜びの著しい減退」があり、「不眠または過眠」など計5つ以上の症状がほぼ毎日2週間以上みられるとする。 大人と違う特徴として、抑うつ気分の代わりにイライラして怒りっぽくなることや体重減少の代わりに期待される体重増加が見られないことを挙げている。その上で診断をより正確にし、治療計画に生かすため、子どもからだけでなく、学校や家庭と連携して友人・親子関係を含めた情報収集の必要性を指摘している。25年以上子どもの精神疾患を診てきた「たかみやこころのクリニック」(兵庫県明石市)院長の高宮静男さんは、子どもは憂うつだと訴えることが非常に少ない。自分の部屋ばかりにいるなど行動で異変が分かることがある」と話す。不登校などで適応障害や発達障害と思われ、うつ病が隠れていることもある。「今まで好きだったゲームをやらない、一生懸命勉強していた子ができなくなったなど、いつもと違うということがポイントだ」と高宮さんは言う。子どもの場合、短期間で自然に回復し、周囲から忘れられてしまうこともあるが、再発に注意が必要という。
頑張れは禁句
子どもは親との死別や両親の不仲、いじめ、友人関係の悩みなど家庭や学校生活での出来事が発症のきっかけになることがある。指針では、治療について「複合的・包括的なアプローチ」を必要とし、家族や学校関係者と連携して、治療計画を立てる重要性に言及している。「頑張れは禁句で、十分な休養を取らせて、徐々に出来ることを増やしていけばいい」と強調する。同クリニックは先生と話しあいながら治療を進めており、学校でいじめに対応してもらったりする『環境調整』も必要になる」と話す。「心理教育」やつらい気持ちを受け止めて問題を整理するなどの「精神療法」も行う。
心因性か内因性か
今のところ、国内の臨床試験で子どもへの有効性・安全性が確認された抗うつ薬はない。指針は、本人や家族にそのことを説明した上で、効果とリスクを十分に検証し、使用時には少量から始めるよう求めている。薬物療法について、症状の原因を見極める重要性を指摘するのが、兵庫県立ひょうごこころの医療センター(神戸市北区)院長の田中究さんだ。 近年普及してきた米国精神医学会の診断基準は、症状の内容や持続期間をみるが、原因は触れない。田中さんは「失恋やいじめなど心理的なきっかけで起こる『心因性』のうつ状態は本来、うつ病とは区別しなければならない」として、「薬が効く場合があるのは脳の病気として起こる『内因性』の本来のうつ病だ」と指摘する。 そして、「診断基準だけに頼るのだけではなく、症状がどこから来ているのか話を聞いて考え、それに見合った治療をするのが大事だ」と話している。